一代目のこと

「おもてなし」
という言葉を、まだ知らない幼稚園年中くらいの頃、祖父の家に行った時の事です。
同じ、お菓子屋さん仲間の祖父のお友達(和菓子屋さんのご主人さん)
が来られました。それは、何の連絡もない訪問だったのでしょう、祖父はちょうど夕食の準備の最中でした。その日は、大きめの海老のムニエルでした。海老は二匹しかありませんでした。
私は、いつも祖父の家に行った時は、お買い物もついて行きました。
なぜなら、お買い物の時は私だけ留守番になるので必然的に一緒に出かけていました。
祖父は、お買い物の時は、特にメインの材料には厳しい目で選んでいました。それは、今思うと、「こだわり」なのでしょうが、その当時の私にしてみたら、お店屋さんに文句を言っているとしか思えなくて、すごく嫌でした。でも、その日の海老には珍しく祖父はお店屋さんの薦めに素直に従い、とても満足な顔でした。
なので、私はその時のお買い物の時間がなんとなくウキウキして、夕食の楽しみがいつもより倍増でした。
そんな海老とバターのいい匂いがしてきていた時の、祖父のお友達のご訪問・・・・
私は、子供ながらに焦りました。   「海老は二匹しかなか!!!」
私の頭の中には、バナナとパンくらいしか思い浮かびません。
すると、祖父は、きれいにお皿に盛り付けテーブルに持ってきました。
今も忘れません。きれいな海老の鮮やかな色とインゲン豆の緑とクリーム色のマシュポテト。
祖父は私とそのお友達の前に置き、「食べんですか、美味しかですよ。」
と言って、自分は、マシュポテトと自家製ドレッシングのサラダ。
お友達は、美味しそうにすごい笑顔で、祖父も楽しそうに嬉しそうに話をしてて、私は、そんなニコニコの風景なのにドキドキしてソワソワして味がしませんでした。そして、一時間くらいしてお友達は帰って行かれました。
その後、私のお皿に残っていた海老の頭を祖父は美味しそうに食べていました。(あっ・・・今思うと、一番美味しいトコなのですが・・笑)

私が、たぶん、一番最初に憶えた「おもてなし」です。
言葉ではなく、学習ではなく、気持ちの中にずっと残っている「おもてなし」です。

ただ、祖父は、「来てくれて嬉しいから・・・」という思いを表しただけ・・・という方が近かったのでしょうが。